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EP13「聖域を滅す者」

レドナ「晩飯、できたよ。」

 俺は2人分の食器をトレーにのせてレイナの部屋に入った。ごはんと味噌汁に焼き魚といったシンプルな晩飯だ。
うちはそこまで裕福な家庭でもないため、一般的かつシンプルな食事しかとらない。

レイナ「ありがと、ちょっと待ってね。」

 レイナは自分の机の上の色鉛筆や定規やらを片付け始めた。

レドナ「何描いてたんだ?」

 ふとキャンバスブックに目が留まって、中身を聞いてみた。するとレイナは急いでそのキャンバスブックを閉じた。

レイナ「なんだと思う?」

 無邪気な笑顔で言った。

レドナ「そうだな、街の夜景か?」

 開いていたカーテンを見て、そんな推測を立てた。窓の外には綺麗にライトアップされた夜景が見えた。

レイナ「う~んハズレ!」
レドナ「じゃあ、何かのキャラクター?」

 結構な自信があった答えが外れ、この答え以外に推測できるものがあまり無かった。

レイナ「それもハズレ!
    答えは・・・私の夢なんだ。」
レドナ「将来のなりたい自分か?」
レイナ「うん、でも叶えられないんだ・・・。」

 ふとレイナの表情が曇った。

レドナ「レイナならなれるさ、俺もレイナの夢を応援するよ。」
レイナ「えへへ、ありがとレドナ君。
    約束だよ?」

 そう言って小さい小指を立てた。

レドナ「じゃあ、完成したらその絵、俺にも見せてくれよ。」

 俺も小指をたてて、小さく指きりをした。

 そして俺はレイナが夢を叶えることが俺の夢になっていた。だからこそここまで来れた。
だからこそ、俺は今漆黒の機神に身を置いている。
 全てを取り戻すために。俺の夢を叶えるために。


EP13「聖域を滅す者」


 -12/28 AM11:28 ポセイドン内部 休憩室-

 今を守る俺は未来を破壊する存在、大切な人の未来を。俺がドライヴァーになることは運命だったのか。
輝咲との出会いも偶然ではなく、台本通りだったということか。

暁「くそっ・・・。」

 俺は椅子を拳で叩いた。自分の拳が赤くなった。もう何が何だか分からない。いつから神なんてのに縋るようになったのか。
誰も聞いていないにもかかわらず、俺は自分の考えを撤回していた。

輝咲「暁君・・・。」

 誰も居ない休憩室。俺の後から聞こえる声は震えていた。それは俺への恐怖からだろうか。
無理も無い、俺は声の主の世界を滅ぼしているのだから。

暁「輝咲、もう俺は・・・。」
輝咲「暁君は、未来を壊したりしないよ。
   こんなに優しい人が未来を壊すなんて、おかしいよ。」

 輝咲が隣に座った。

暁「でも俺はX-ドライヴァーだ。
  真紅のアルファードになった時も、俺は破壊することしか考えていなかった。」
輝咲「ううん、それでも暁君はARSの皆を守ってくれた。
   私を助けに来てくれた。」

 輝咲の目じりには涙の後が残っていた。

輝咲「何かを守るための破壊なら、私は暁君が正しいと思う。」
暁「そうかな・・・。」

 犠牲を出す勝利なんてものには一銭の価値もない。何のためのこの力か。
港区を消滅させた時と同じ気持ちが、今の俺を動かしていた。
 だが確かに輝咲の言うとおりだ、でも輝咲の意見をそのまま肯定することができない俺がいた。
ならば、輝咲の世界を壊した俺も、何かのためなら許されるのか。

輝咲「人は誰だって過ちを犯すことはある、でも人は変われるんだよ?」

 未来の過ち。そうだ、俺は今からでも変われるんだ。未来を壊したなら、今を変えることはできるはず。
今から償いをすれば、きっとどうにかなる。

暁「俺・・・、本当に変われるかな?」
輝咲「うん、暁君ならできるよ!
   もし道に迷ったとしても、私が手をかすから。」

 そう微笑んで、輝咲は落ち込む俺の肩に手を乗せた。

暁「ありがとう、輝咲。」

 未来を変える決意を胸に、俺は涙で濡れているその手の上に自分の手を置いた。


 -PM00:21 ARS本部地下 機神・疑似機神ハンガー-

茜「ポセイドンから降ろして運んできたはいいけど・・・。」
淳「こりゃ、一週間は出撃不可能か。」

 目の前に広がる原型を留めないほどにひん曲がり、黒ずんで罅割れた機神・疑似機神を見て言った。
中でもアルファードだけは無傷でハンガーに固定されていた。

茜「さすがにアルファードだけじゃ、今後は辛いわよ。
  新装備もまだできてないんでしょ?」
淳「あぁ、大急ぎで製造させてるんだけどね。
  やっと7割り方終ったらしい。」
茜「7割りねぇ・・・、敵が来ないのを祈るしかないわね。」

 しぶしぶと茜は傷ついた疑似機神へと向っていった。

淳「てるてる坊主でもぶら下げてみるかい?」
茜「口動かす前に手伝いなさい!」


 -PM00:52 福岡県鳳覇家付近-

 ARSに着いてすぐに俺は福岡へと戻っていた。戦闘報告などが山積みに残っていたが、それから逃げたわけではない。
数十分前にレイナさんから突然の電話があった。レドナへの電話が通じず、もしレドナに会った時に渡して欲しいものがあるという。
 レイナさんはリネクサスに監禁されていたと思われたが、敵の作戦変更か何かで今は自宅にいるようだ。
すぐに夜城家に行って、レイナさんの安全を確保するためにも、俺は任務として福岡に戻ってきたのだ。
 ちょうどマンションの前まで行くと、黒い服を来た男が数人マンションへ入って行った。

暁「何だ?」

 俺はポケットから手を出し、走ってマンション内に入った。時は遅くエレベーターは上へと上がっている。
階を確認していると、それは9階で止まった。9階には夜城の部屋がある。

暁「まさか!!」

 俺は急いでエレベーターのボタンを連打した。だがエレベーターの階表示が9の所が光ったままだった。
どうやら一人がエレベーター内で開けっ放しのボタンを押しているに違いない。
 数十秒して、ようやくエレベーターが降りてきた。俺は戦闘体勢を取った。階が下がっていくたびに鼓動が高鳴る。
そしてついに1階に到着し、エレベーターのドアが開いた。

暁「はぁぁっ!!」

  開いたドアの隙間に思いっきり拳を突き入れた。だが、エレベーターの中には誰も居なかった。

暁「あれ・・・・?」

 その時、外で台風の様な音がした。見ると、マンションの壁際にエインヘイトがいた。1体はマンションに張り付き、もう2体は護衛のようだ。
マンションに張り付いているエインヘイトの腕に人影が見えた。男2人が、黒髪の女性を担いでいる。距離はあったが、レイナさんであることはすぐに分かった。

暁「夜城さん!!」
レイナ「鳳覇君!!」

 レイナさんはこっちに気づきはしたが、すぐにエインヘイトの中に収容された。時は遅かった。
すぐにアルファードでエインヘイトを落すことは簡単だが、人質持ちでは迂闊な戦闘は避けたほうがいい。
 それともう一つ俺の考えがあった。レイナさんがさらわれたことは、つまりレドナに決断の時が来たと考えていいだろう。
だとするとARSが危ない。確実にレイナさんのためならレドナはARSを一人で潰しに来る。
 ここからARSまでは20分は掛かる、20分という時間はレドナにとってARSを壊滅させるのに十二分な時間だ。
こっちは機神も疑似機神もほとんどダメになっている。今すぐ東京へ向う方法はないのか。
 少し考えると、すぐにその方法は思いついた。行動に移し、マンションの屋上まで一気にエレベーターで上がった。
屋上のフェンスをよじ登り、迷い無く飛び降りた。

暁「来いっ!スティルネス!!」

 俺はX-ドライヴァー、全ての機神のドライヴァーとして存在できる。ならばスティルネスも使えるはず。
予想通り、上空から青い閃光が降りてきて、俺を助けた。荒傷が多々あったが、機動に問題はないようだ。
 俺はそのままスティルネスへと乗り込んだ。


-同刻 ARS機神・疑似機神ハンガー-

淳「あ、茜さん!!」
茜「どうしたの・・・!!」

 驚いた淳の声に茜が振り返る。

茜「ちょっと!スティルネスはどこ行ったの!?」

 見ると、ハンガーに固定されていたスティルネスの姿が消えていた。

淳「神崎君が持っていったとか?」
茜「今は整備中だから機神のサモンはしないよう彼に忠告してるわ。
  一体どうして・・・・。」

 突然ハンガー内の端末に通信を知らせる音が鳴り響いた。通信画面にはスティルネスからの通信であることを表していた。
急いで茜はボタンを押して画面を開き、受話器を取った。

茜「もしもし?誰!?」
暁「御袋!スティルネスのワープゲートを開いて!
  そっちに夜城が向っているはずだ!」
茜「暁!?一体何してるのよ!?」
淳「X-ドライヴァーの立場を利用してスティルネスをサモンしたのか。」

 感心したように淳が呟いた。

暁「事情は後で話す、だから早く!!」
茜「・・・分かったわ、ゲートの場所を送るわ!」

 スティルネスのモニターにゲート位置が転送された。すぐにそこへと進路をとる。場所は最初にスティルネスと出合ったところだった。
操縦方法は勝手に分かっていたが、アルファードとは比べ物にならない速度だった。
 海中に隠されていた銀色のワープゲートまで辿り着くと、躊躇無くその穴に飛び込んだ。
一瞬すると、次に見えた景色はARS本部敷地内だった。

-

 敷地内に着地したスティルネスは海水をポタポタと垂らしながら直立した。

暁「間に合ったか・・・。」

 ホッと一息つくと、すぐに敵の接近警告音が鳴った。

茜「暁、例の黒い機神が来ているわ!」
暁「分かった、スティルネスはここに置いとくぜ。」

 俺はスティルネスのコクピットを開け、飛び降りた。

暁「来い!アルファード!!」

 空に円が現れ、アルファードが降りてきた。アルファードに乗り込むと、こっちも敵接近の警報音が鳴っていた。
すぐにレーダーを確認する、高速で接近する機影がある。
 赤黒いビームの攻撃、瞬時に俺はジャンプしてそれを避けた。

暁「レドナっ!!」
レドナ「来ていたか、暁。」

 漆黒の悪魔の様な機神が肉眼で確認できた。

暁「事情は分かってる。
  でも、俺にも守るべきものがある。」
レドナ「ARSか。」
暁「あぁ、でもそれだけじゃない!」

 犠牲は出さない、俺の答えはただ一つ。

暁「お前と、レイナさんもだ!」
レドナ「!?」

 漆黒の機神は接近を止めた。

暁「お前が自分の姉さんのために命張ってるのはすげぇよ。
  でも、誰かを殺してまで手に入れた命を、レイナさんは喜ぶか・・・?」

 レドナの返事が無くなった。

暁「助けよう、レイナさんを!」
レドナ「黙れぇぇっ!!」

 漆黒の機神が大剣を振りかざし、襲ってきた。すぐにアルファードの太刀を抜き、攻撃を受け止めた。

レドナ「お前に何が分かる!!
    俺がどんな思いでレイナを守ってきたか、知ったような口で!!」

 大剣が真横に構えられた。太刀では追いつけないので後にジャンプして攻撃を避けた。その間に太刀を構えなおす。
着地と同時に前に踏み込み、レドナの機神に太刀を突き刺そうとした。だが、大剣がそれを弾き返した。

暁「ど、どうしちまったんだよ・・・レドナ!!」

 明らかに今のレドナはいつもの平常心と冷静さを失っていた。姉の事となれば急変するのも無理はないが、そんなもんじゃない。
急に暴力的な性格に生まれ変わったようだ。

レドナ「はあぁぁぁっ!!」

 大剣の重たい斬撃、左手で構えていた太刀が衝撃に耐え切れず折れる。太刀の先端が回転して地面に突き刺さった。
折れた太刀の柄を捨てた。

暁「目ぇ覚ませ!!レドナ!!」

 遠心力を纏ったアルファードの尻尾で腰部にある黒い装甲をたたきつけた。よろける漆黒の機神。
すぐに体制を立て直し、右手で構えた大剣を振るった。回避しきれずアルファードの胸部に亀裂が入った。

暁「ぐっ!!」

 その衝撃でアルファードは背中から地面に倒れこんだ。空かさず漆黒の機神がアルファードの上に跨る。
大剣を両手で構え、それを振り下ろす体勢を取った。

レドナ「終りだっ!」
暁「レドナ・・・悪い・・・。
  ブラッディモード!!」

 頬を流れる血の涙、アルファードに附着した瞬間にそれは真価を発揮した。
一瞬の光と共に真紅の力がアルファードを覆う。

レドナ「何!?」
暁「そこを、どけぇぇ!!」

 上に跨っている漆黒の機神を真紅の腕が殴り飛ばした。

レドナ「くっ!こいつがX-ドライヴァーの力か・・・!」
暁「うおおぉぉぉっ!!」

 地面に尻餅を付いた漆黒の機神目掛けてダッシュする。1秒も経たない間に二発目の拳を叩き込んでいた。
衝撃で漆黒の機神が吹っ飛んでいる時、突然通信画面が開いた。

雪乃「鳳覇君、よく聞いて。
   夜城君の機神には広範囲爆弾が搭載されているわ!」
暁「えっ!?」

 咄嗟に俺は画面から目を逸らし、夜城の機神を見た。低い放物線を描き、地面に倒れこんだ漆黒の機神を。

雪乃「このまま海上まで押し出して、安全圏に入ったらS・ノヴァを放って!」
暁「そ、それって・・・レドナを殺せって事ですか!?」

 ノヴァの中では何もかもが消滅する、つまりレドナ一人を助けられるわけはない。
間接的に殺せと言っているにすぎない。だが、俺はレドナを守らなければならない、犠牲は出せない。

剛士郎「鳳覇君、聞こえるかね?
    残念だが、1人と大勢の命は比べ物にならない。」

 吉良のおっさんの深刻そうな声が聞こえる。確かに言っていることは正論だ。

暁「何だよ、それって!!」

 目の前の夜城はその事実を知っているのだろうか。そんなはずはない。
きっと夜城は敵の捨て駒として使われているんだ。
 すぐに俺は通信で夜城に呼びかけた。

暁「レドナ、今すぐ機神から降りろ!!
  そいつには爆弾が付いてる!!」
レドナ「そんな嘘で俺が退くとでも思うか!!」

 漆黒の機神が起き上がり、剣を構えて迫り来る。やはり予想は的中した。レドナはこの事実を知らない。

暁「ったく!!どうすりゃいいんだよ!!」

 とにかく俺は機神の斬撃を素手で受け止め、体を掴んで海上まで押し出した。

暁「有坂さん!爆弾は一体どこについているんですか!?」
雪乃「あの機神の頭部よ。でも、迂闊に手を出したら爆発しかねないわ!」

 すぐに機神の頭部をロックオンした。

暁「やるだけやってみます!
  サンクチュアリ・クラスタァァッ!!!」

 ノヴァを放つ時と同様に装甲が展開し、表面にノヴァを帯びる。

レドナ「待っていた!この、瞬間を!!!」
暁「何!?」

 漆黒の機神の腰についているスカート状の装甲が展開する、青い粒子が周囲に散らばる。
展開の衝撃でアルファードは漆黒の機神を離してしまった。

レドナ「お前がノヴァを放つ瞬間を待っていた!
    今こそ教えてやろう、この機神の名を・・・。」

 スカート上の装甲の前方が開き、最大に展開して後に回り込む。背中で円を描くような形になった。
その円からは煌く青い粒子がノヴァと同じように出ていた。

レドナ「聖域を滅す者、ディスペリオン!!」

 その名の通り、解放者が放つ粒子がノヴァの力を抑えていった。

暁「な、何が起こってるんだ!?」
レドナ「こいつはサンクチュアリと同期の兄弟機、その力はサンクチュアリ・ノヴァの完全消滅。
    そして・・・。」

 抑えられていたノヴァが解放された。ノヴァの光は今までに見たこともない形をした。
光が収束し、一本の粒子の線となる。

レドナ「ノヴァのコントロールだ!!」

 ディスペリオンが背を向け、青い粒子を空に向けて放った。その青い粒子を追うかのように線状となったノヴァも空に上がる。
ドスン、という音と共に、上空で何かが爆発した。

暁「・・・!!」

 上空から巨大なロボットが降りてきた。ロボットと言うより、戦艦といったほうが正しいか。

レドナ「爆弾もダミーだ、全てはお前がノヴァを放つように仕向けた布石だ。」
暁「レドナ!」

 ディスペリオンは巨大な機神へと向っていった。俺はようやく状況を理解した。レドナの性格の急変は俺に敵意を持たせるため。
敵意を持たせた先には、ノヴァでの消滅が来ることをレドナは予測していた。
 ただ俺の意思だけじゃノヴァは放たれまいと、爆弾というダミーを置いたのだ。

レドナ「言ったよな、俺とレイナも守るって。
    なら、その言葉守ってもらおう。」
暁「あったりまえだ!」

 俺はディスペリオンの後に続いた。

ナーザ「そうきたか。
    ノヴァを利用し、このヘカントケイルを落とそうという作戦、評価するなら5点だ。」
レドナ「5点もらえれば、十分だ!!」

 ディスペリオンの大剣が真っ二つにわれ、ビーム砲と化す。赤黒いビームがヘカントケイルと呼ばれた機神の装甲を抉っていった。

レドナ「今だ、暁!」
暁「うおぉぉぉっ!!」

 ヘカントケイルのコクピットと思われる部分にしがみ付いた。機神のコクピット部分にはレンズパーツがあるのですぐに場所は特定できた。
そこをこじ開けると、20歳前後の大人が座っていた。

暁「レイナさんはどこだ!」
ナーザ「ふっ、だから5点なんだ。」
レドナ「どういうことだ!?」

 突然海中から無数のビーム砲が放たれた。回避するためアルファードとディスペリオンは一旦ヘカントケイルから離れた。
それが相手にとっては好都合となり、ヘカントケイルは見えないビームのバリアを展開した。

レドナ「しまった!」
ディック「さて、探し物はコイツかい!?」

 海中から百足のような機体が現れた。性格に言うと、頭部は機体でそれに百足のような追加パーツが付いているような感じだった。
その機体のコクピットにいるカイルのような以下にも不良のような面構えの男の腕には、レイナさんが居た。

暁「もう一機!?ぐああぁぁっ!!」

 ヘカントケイルの主砲がアルファードに直撃した。生憎クラスターを纏っていなかったのでダメージが直に伝わる。
海中に撃墜する一歩手前で、何とか体勢を立て直した。

レドナ「レイナ!!」
ディック「言ったよなぁ!?変な真似したらコイツを殺すって!!」

 男が銃をレイナさんに突きつけた。レイナさんは恐怖で声が出せずに顔で恐怖を語っていた。

レドナ「やめろ・・・レイナを離せ!!」
ディック「ひゃーっはっは!!悪いな、そいつは無理ってやつだ!!」

 百足型の機体がディスペリオンが居る高さまで上がってくる。うねうねと上がっていく姿はヘビにも似ていた。

ディック「姉ちゃんの死を特等席で見せてやるよ!!」
レドナ「やぁめろおおぉぉぉっ!!!」

 ディスペリオンが百足型に接近する。
 男の銃のトリガーに指がかけられた。
 漆黒の大剣を構え、振りかざす。
 銃口がレイナさんの背中を突いた。
 
 一瞬の銃声、赤い血がレイナさんの腹部から飛び散った。

レドナ「!!」
ディック「ひゃぁーっはっはっは!!!最高だぜ!!」

 男は倒れるレイナさんをコクピットから突き落とし、自分だけ百足型に乗り込んだ。
海面に目掛けて落ちるレイナさん、その速度より早くディスペリオンが落下地点に先回りした。
コクピットが開き、レドナが落ちてくるレイナさんを抱き止めた。

-

レドナ「レイナ!!レイナッ!!」

 俺は必死にレイナの名を叫んだ。

レイナ「うっ・・・、レドナ君・・・。」

 目を半開きにして、レイナがこっちを向いた。腹部から流れる血が俺の手を伝った。
 レイナの温かい左手が俺の頬を撫でた。

レイナ「レドナ・・・君、ごめん・・・ね。」
レドナ「何言ってんだよ、謝るのは俺の方だ!
    ずっとレイナに戦ってること隠して、勝手にレイナを危険な目に合わせて・・・。
    俺、最低な弟だよ・・・!!」
レイナ「ううん、そんなことないよ。」

 息が上がりながら、レイナは続けた。

レイナ「レドナ君は、私のために戦って、くれたんだよね・・・。」

 俺は頬を撫でるレイナの手を握り締めた。レイナにかける言葉が見つからない自分が悔しい。

レイナ「温かい・・・レドナ君の手・・・。」
レドナ「ずっとこうしてるよ、だから・・・だか・・・ら。」

 俺の目から押さえきれなかった涙がボロボロ零れ落ちた。レイナの服が血と涙で濡れていく。

レイナ「泣かないで・・・レドナ君。」

 胸が締め付けられるように痛い。今まで味わったどんな痛みよりも遥かに上だ。
涙を堪えようと歯をかみ締めるも、止まることは無かった。

レイナ「ねぇ、レドナ君・・・、一つお願い・・・して、いいかな?
    私の夢・・・叶えてほしいんだ。」
レドナ「一つなんていうなよ、俺にできることならなんでもする。」

 涙を流しながらこんなこと言っても、信用されないだろう。

レイナ「私は・・・レドナ君の事・・・大好きだよ。
    弟だからとかじゃなくて・・・一人の男の子として・・・。」

 レイナは精一杯の笑顔を作っていた。痛みに耐えながらこんな笑顔を作っているのに、たかが涙を抑えられない俺が悔しかった。
唇をかみ締めながら、俺はただレイナを見た。

レイナ「だから・・・私をレドナ君の・・・お嫁さんにしてほしいな。」
レドナ「そんなこと、大好きなレイナに言われたら断れねぇだろ・・・。」

 俺も今できる精一杯の笑顔を見せた。

レイナ「良かった・・・、レドナ君に好きって言ってもらえて・・・・うっ。」
レドナ「レイナ!しっかりしろ!」

 レイナの表情が苦痛に歪む。力強くレイナの手を握る。若干の力でレイナも俺の手を握り締めた。

レイナ「レドナ君、ありがと・・・、レドナ君の事、ずっと見守ってるよ・・・。
    私の・・・大好きな・・・レド・・・ナ・・・君・・・。」

 レイナの手がぶらんと垂れ下がった。

レドナ「おい・・・レイナ・・・、冗談だよな・・・。」

 俺は必死にレイナの体をゆすった。

レドナ「レイナ・・・目を開けろよ!!レイナ!!!」

 どんなに揺すっても、どんなに叫んでもレイナは目を開けない。もう一度俺に笑顔を見せてくれない。
望んでいない最悪の結果が、俺の腕の中で起きてしまった。
 この真実から目を逸らしたい、だが力なく息絶えたレイナの姿は俺の目に、脳に、体に刻まれていった。

レドナ「レイナァァァッ!!!!」

 叫び声が広い海にこだました。

ディック「こりゃ傑作だな!!殺しがいがあったってやつだぜ!」
レドナ「てめぇ・・・・。」

 俺の真紅の目は下品な笑いを浮かべてこちらを見るディックを睨みつけていた。奥歯をかみ締める。
口の中に鉄の味が広がった。

レドナ「かえせ・・・・。」

 ディスペリオンに乗り込んだ、まだ温かさが残るレイナを抱いたまま。

レドナ「レイナを、かえしやがれぇぇぇっ!!!」

 俺は怒りに身を任せていた、自分が今何をしているのか明確に分からない。
ただ今までの戦いに身を置いていた俺が、感覚で勝手に動かしているにすぎなかった。

ナーザ「引き上げるぞ、ディック。」
ディック「あ~いよ。」
レドナ「待ちやがれぇぇっ!!」

 海中に潜る百足型、ディスペリオンも海中に潜らせる。追撃するため、背中の大剣を握り締める。

ナーザ「そんなに戦いたいなら、私が相手をしよう。」

 ヘカントケイルの主砲攻撃が海面を貫く。前進していたのを急停止し、確度を90度変えて真上にいるヘカントケイルに進路を変える。

レドナ「あああぁぁぁぁっ!!」

 海中に上がり、大剣ドラグーンを振り上げた。至近距離ではヘカントケイルは何も出来ないはず。
俺はそのまま怒りを糧にドラグーンを振り下ろした。鈍い音がこだまする。

レドナ「何!?」
ナーザ「ビームシールドを張っていることを忘れたか。」

 完全にその事を忘れていた、この失敗はナーザにとって絶好のチャンスとなった。
 一瞬の隙にヘカントケイルが後に下がり、ビーム砲を放った。全弾がディスペリオンを貫く。

レドナ「ぐあああぁぁぁぁっ!!」

 ディスペリオンの漆黒の装甲が剥がれ落ち、海面に叩きつけられた。

-

暁「レドナッ!!」

 海面に水しぶきを上げ、叩きつけられるディスペリオン。回収しようと俺はディスペリオンに駆け寄った。
だが、ヘカントケイルの砲撃の矛先がこちらに向ってきた。急旋回してビーム攻撃をかわす。
 そのまま進路を変え、ヘカントケイルに目掛けて接近した。

暁「サンクチュアリ・クラスターッ!!」

 肩と膝の装甲が開き、赤い粒子を体中に帯びる。

ナーザ「己の力を過信しすぎだな。」
暁「どういう意味だ?
  ・・・・っ!?」

 気がつくと、アルファードは通常の白色に戻っていた。ブラッディモードに限界時間があることを理解した。

ナーザ「縁があればまた会おう。」
暁「うああぁぁぁっ!!」

 一瞬の不意を突かれて、ヘカントケイルの主砲が直撃した。ディスペリオン同様にアルファードの海面に叩きつけられた。
ゆっくりとヘカントケイルが去っていく姿がノイズが混じるモニターに映し出されていた。
 さっきまでの快晴は嘘の様に、空が黒く染まりだした。傷ついた機神を、雨粒が激しく叩いた。

EP13 END


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